ホテルがサイクリストにできること
尾鷲港の近くに建つホテルビオラは、エリアでも数少ない近代的なビジネスホテル。東京で長く市役所職員として働いた楠 裕次さんは、地元に戻って市議会議員もしたあと、現在このホテルの広報や渉外などを担っている。自転車乗りでもある楠さん、すごーくサイクリストのことを考えてくれてます!
尾鷲港の近くに建つホテルビオラは、エリアでも数少ない近代的なビジネスホテル。東京で長く市役所職員として働いた楠 裕次さんは、地元に戻って市議会議員もしたあと、現在このホテルの広報や渉外などを担っている。自転車乗りでもある楠さん、すごーくサイクリストのことを考えてくれてます!
紳士的でおだやかな口調、でも説得力があって人を動かす雰囲気。73歳とは思えないほど若々しい楠(くす)さんは、以前はバンクも走るトラック(ピスト)バイク乗りだったそう。
「東京の市役所にずっと務めてまして、62歳で定年して地元の尾鷲に戻ってきました。今も東京と尾鷲の2拠点生活で、行ったり来たりしてますけどね」
トラックレーサーに乗ってたって、珍しいですね。
「同じ職場で乗ってる人がいて、いっしょにやろうって誘われて。伊豆修善寺にある日本サイクルスポーツセンターのバンクで練習してました。フェザーコンポっていう日米富士の自転車を手に入れて、公道では国道16号を延々走ったり。レースには出てないんですけど、練習してるだけで楽しかったですね。脚がパンパンになるまで走ってました(笑)。今は息子がトライアスロンを始めて。すごく高い自転車に乗ってるんです、触ると怒られる(笑)」
もう乗ってらっしゃらないんですか?
「子どもが大きくなって余裕ができたら、またトラックに乗ってみようと思っていたんですけど、その友達が病気で50歳で亡くなって。だからもうトラックには乗ってません。でも乗りたいですね、すごく。ただ細いタイヤはもう怖いかな。いろいろ怖い経験もしてきたんで。昔は道も悪くて、けっこう転んだりしましたからね。自転車で面白い体験と怖い体験、いろいろしてきましたね。ただ今走ってる人を見ると、うらやましいなと思います。だから気が向くと一人で隣町の九鬼まで行って、持っていったオニギリとか食べて帰ってくるんです。まあ坂は上れなくなりましたけどね(笑)」
このあたりは自転車のイベントも多いから、そういうのに出てみては?
「イベントはどうかな(笑)。でもイベントとかで走ってる人を見ると、みんな一生懸命走ってますよね。そういうのを見てるとこっちもうれしくなりますね」
やっぱり自転車に乗ってる人の心がわかるから、通じるものがあるんですね!
このあたりを走るサイクリストは増えてきましたか?
「軽装のロードバイクだけじゃなく、大きな荷物を持って走ってる人とか、見かけるようになってきましたね。そういうサイクリストに出会うと、どこまで行くのかな、時間的にこれからだとあのあたりで野営かなとか、想像します。そういうのを見てると心配というより楽しみですね。どんなふうに野営するのかとか、見に行きたいと思いますもん」
サイクリングもいろんなスタイルがありますよね。
「そう、いろんなスタイルがあるからいろんなニーズがある。そういうニーズに対して、われわれホテル側は何ができるのか、どうやって応えていけばいいのかって、最近はよく考えます。たとえば大雨になって野営できなくて泊めてくれってとき。空きがあればいいけど、ないときにどうするか。ほかのホテルの空きを聞いてあげるとか、民泊などとの連携がとれていれば、そこを紹介するとか。疲れて走れなくなってしまったサイクリストを迎えに行くサービスとかもうまく組み立てられれば」
「せっかくこの尾鷲に、東紀州に来てくれてるんだから、受け入れる側も工夫しないと。昔はサイクリングの途中で困り果てたとき、お寺に行くと泊めてくれたりしたんです。そういう助け合いの雰囲気が当たり前にあった。今はなかなか難しいのかもしれませんが、そういう心って大切だと思うんです。サイクリストにやさしい宿っていうんじゃなくて、サイクリストにやさしいまちになっていけばいいと思うんです」
すごい! サイクリストにやさしいまち!
「行政の仕事で地域まちづくりをしていたんで、そういう思いとホテル業務の間で相反するところがいろいろあるのはわかってます。でもそのなかで接点を見つけていかないと双方で無駄になってしまう。個々の損得じゃなくて、その無駄を防ぐことでみんなが潤えばいい。そこでまた新しいアイデアが出る。そういう回り方が理想です」
「このあたりもインバウンドのお客様が増えてきました。彼らはうまい旅の仕方をしている。大きなリュックを担いできて、早く宿に着いたら荷物を置いてまた歩きに出る。中辺路小辺路を歩いて奈良から高野山からずっと下りてきたりして、ここから伊勢まで行きますとか。じゃあそれを自転車に置き換えてみたらどうなのか。どういう行動範囲なのか、どんな旅の仕方なのか。自転車は距離は長く移動できるけど、大きな荷物は持てないし。じゃあどうしようかと。何かアクシデントがあったとき、それに対応したシステムも必要。それらがうまくネットワークできていれば、もっと来てもらえる。門戸を広げましたよって言うことができる」
最近は紀勢線でもサイクルトレインの実証実験がありますよね。そういうのもそのひとつになりますよね。
「そうそう! これが名古屋までグルっと紀伊半島を一周するようにつながればいいですよね。ヨーロッパみたいに鉄道と自転車で気軽に旅ができるようになる。あとはサイクリングと熊野古道歩きをミックスした提案をするとかね。こういうのを実現させるのって、個人の力ではなかなか難しいけど、みんなでやれば動き出す。地元だけじゃなくて外から来た人とも一緒になって、楽しみながら良くなっていくような動きになればいいですよね!」
目を輝かせてサイクリング地域振興を語ってくれた楠さん。東紀州のこれからに注目です!
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